◎毛髪の構造と成分を正しく知っていますか?
●毛髪は3層構造になっている
私たちの皮膚は、角質層、表皮、真皮という3つの層から成り立っています。
髪の毛も同様で、外側から毛表皮、毛皮質、毛髄質の3層の細胞からできています。
最も外側にある毛表皮が「キューティクル」と呼ばれている部分で、細胞同士が魚のウロコのように重なり合っています。
キューティクルは、角化した透明なウロコ状の細胞がしっかり重なり合うことで、外からの汚れをつきにくくします。
また、異物の浸透を防ぎ、髪の毛の内部から栄養が逃げないようにする働きも持っています。
このキューティクルが損傷すると髪の毛がパサつき、ツヤもなくなり、枝毛や切れ毛の原因になります。
ブラッシングしていてブラシの通りが良くないと感じたら、キューティクルが傷んでいると思って間違いありません。
中間の毛皮質は「コルテックス」と呼ばれ、メラニン色素を多量に含む細い繊維状のタンパク質がぎっしりと束ねられています。
この構造から髪のコシが生まれ、日本人の髪の色が黒いのもコルテックスにメラニン色素が多いためです。
メラニン色素は、シミやソバカスの原因として女性から大変に嫌われています。
しかし、メラニンには紫外線から皮膚を守る働きがあり、皮膚の保護に欠かせない色素細胞なのです。
メラニンをつくるのは、メラニン産生細胞と呼ばれる細胞です。
皮膚が紫外線にさらされると、メラニン産生細胞は、メラニンをつくる前に、紫外線から細胞や遺伝子を防衛するためにグルタチオンという物質をつくります。
働きを終えたグルタチオンは、細胞内で再びグルタチオンに変えられます。
しかし、紫外線の影響がグルタチオンの働きを上回ると、グルタチオンが消耗します。
そうなると細胞や遺伝子は紫外線によって障害を受けやすくなり、次にメラニンをつくって防衛するのです。
話を髪にもどしましょう。
最も内側の毛髄質は「メデュラ」と呼ばれ、多少のメラニン色素の粒子を含む細胞が集合しています。
1~2列に並んだ立方体の細胞が、まるで蜂の巣のように並び、内部には無数の空気穴があります。
その空気穴に空気がたっぷり含まれることが断熱効果を生み、頭部を直射日光から守ってくれるのです。
●髪の毛の主成分はタンパク質のケラチン
じつは爪と同じく、髪の毛は皮膚の一部です。
髪は、表皮の一部が変化・発達したかなり特殊な皮膚ということができるのです。
皮膚の角質層は髪では毛表皮(キューティクル)、表皮は毛皮質(コルテックス)、真皮は毛髄質(メデュラ)に相当するわけです。
髪の毛の主成分は、ケラチンと呼ばれる繊維質のタンパク質です。
ケラチンはタンパク質のなかで最も硬質で丈夫で、髪の毛1本でおよそ120グラムの重さのものを持ち上げるほどの強度があります。
皮膚の角質も、ケラチンからできています。
髪の毛は硬ケラチン、皮膚の角質は軟ケラチンの違いがありますが、どちらもケラチンであることに違いはありません。
ケラチンは、8種類のアミノ酸から構成されています。
内容は9種類の必須アミノ酸(ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、スレオニン、トリプトファン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン)と同じく9種類の非必須アミノ酸(グリシン、プロリン、チロシン、グルタミン酸、アラニン、セリン、アスパラギン酸、アルギニン、シスチン)です。
皮膚も髪の毛もケラチンですから、これら2種類のアミノ酸が結合してできています。
しかし、皮膚のケラチンと髪の毛のケラチンには大きな違いがあります。
構成しているアミノ酸は同じ8種類でも、その割合が違うのです。
なかでも際立った違いが、非必須アミノ酸のシスチンです。
皮膚ではシスチンが3%程度なのに対し、髪の毛では16%にも達しています。
シスチンの特徴は硫黄を含んでいることで、髪の毛を燃やすとちょっといやな臭いがします。
この臭いは、シスチンが分解してできた硫黄酸化物の臭いなのです。
◎ヘアサイクルが正常であれば、髪は減らない
●生えて抜ける。それが毛髪の正常なサイクル
髪の毛は、毛穴から生えてきます。
髪の毛が皮膚の変化したものであるのと同様、毛穴は皮膚の真皮が陥没してできたものです。
髪は、表面に出た部分(毛幹)と、皮膚のなかに埋もれている部分(毛根)から成り立っています。
毛根は毛包に包まれ、毛包の下の部分はタマネギ状にふくらんでいます。
この部分は「毛球」と呼ばれ、この毛球が毛乳頭を包んでいます。
植物の場合、根を引き抜くと二度と生えてきませんが、毛根は違います。
毛根ごと引き抜いても、また同じところから髪の毛は生えてきます。
人間の髪は、人間の身体のなかで最も細胞分裂が活発な場所です。
その髪の毛をつくるのが、毛母細胞です。
毛細血管から栄養を受け取った毛乳頭は、毛母細胞に栄養を渡します。
栄養を受け取った毛母細胞は細胞分裂を繰り返し、上へ上へと伸びていきます。
誤解している人もいますが、髪の毛は毛先が伸びることで成長するものではありません。
皮膚の深いところにある毛母細胞が分裂して増えることで、髪の毛は伸びていくのです。
髪の毛の色を決めるメラニンも、毛母細胞がつくります。
赤ちゃんは全身をうっすらと産毛に包まれて生まれてきますが、この最初に生えていた毛は、これから毛を生やすための土台のようなものといえます。
最初の髪はだいたい3年くらい、2回目は4~6年くらいで生え変わります。
人間の毛穴の数は、生まれたときにすでに決まっています。
だから、年齢を重ねることで増えることはありません。
成長するにつれて頭部、眉、わきの下、陰部付近などに限って次第に子供の毛から大人の毛に生え変わり、太く濃くなっていくのです。
●ヘアサイクルが正常であれば、髪の毛は5年ほどで抜け落ちる
人間の髪の毛の本数は、多い人で15万本ほど、少ない人で6万本ほどといわれ、一般的にはだいたい10万5000本程度とされています。
健康な人の場合、髪は1日に0.3~0.4ミリ、1カ月で1センチほど伸びます。
髪の毛は、生えはじめから成長期には太く長く伸び、退行期に入ると伸びが止まり、休止期を迎えて自然に抜け落ちていきます。
この繰り返しがヘアサイクル(毛周期)と呼ばれるもので、髪の毛の1本1本にそれぞれのヘアサイクルがあります。
この寿命をまっとうして抜けるのが健康な髪の一生ということになり、人間のヘアサイクルは平均5年前後です。
成長期には皮膚の下で毛を包み込んでいる毛包が長く、真皮を貫いて皮下脂肪組織にまで伸びることがあります。
このような成長期の毛はとても元気で、その毛を抜くとしたら70~80グラムもの力が必要になります。
逆に、毛根が短くなる退行期を経て休止期に入ると、毛包の長さは成長期の半分ほどに縮んでしまいます。
毛根部分は丸くなって、20グラム以下の力でも簡単に抜けるようになります。
個人差はありますが、健康な人でも1日に50~70本はヘアサイクルによって抜けています。
ただし、ヘアサイクルで髪の毛が抜けたとしても、心配は要りません。
抜けたあと、だいたい3カ月くらいでまた同じところから新しい毛が生えてくるからです。
こうして生えてから5~6年は伸び、抜け落ちると3カ月ほど休むというヘアサイクルが、きちんと守られていきます。
最近の平均寿命から見ると、一生のうちに12回ほどこのサイクルを繰り返す計算になります。
髪全体からの抜け毛の割合を見てみると、成長中の髪が全体の80~90%とした場合、休止期に入っている髪が1日に50~70本抜けているとすると、その割合は髪全体の0.1%にも満たないのです。
●ヘアサイクルの脱毛は遺伝子の働きだった
ヘアサイクルによる脱毛のメカニズムが明らかになっています。
ヘアサイクルの脱毛にはTSC-22とSmad2という2つの遺伝子が関係することがわかったのです。
ヘアサイクルは成長期、退行期、休止期のサイクルです。
これまでの研究で、TGFベータ2というタンパク質が退行期のスイッチを入れ、カスパーゼ酵素が増えることで毛母細胞の細胞死が起こることはわかっていました。
さきほどの2つの遺伝子は、TGFベータ2によって退行期のスイッチが入ってから、毛母細胞が細胞死するまでの期間に重要な役割を果たします。
TGFベータ2が毛乳頭付近にあらわれるとSmad2が活性化され、さらにTSC-22も作用し、カスパーゼ酵素が増加するのです。
そのため毛母細胞は細胞死を起こし、脱毛が進行するのです。
◎あなたの異常脱毛はどのタイプ?
●異常脱毛は現在大きく5つのパターンが考えられる
ヘアサイクルの脱毛は正常脱毛で、ヘアサイクルが正常であれば、髪は抜けてもまた生えてきます。
しかし、いろいろな原因で異常脱毛が起こり、抜けたあとに新しい髪の毛が生えてこないようになります。
異常脱毛をパターン別に分類すると18種類ほどになりますが、近年の異常脱毛には次の5つのパターンが最も多く見られます。
①ひこう性脱毛症
「ひこう」は、漢字で「粃糠」と書きます。
この脱毛症は欧米人に少なく、日本人のとくに女性に多く見られます。
乾燥した大量のフケの出ることが特徴で、皮脂欠乏症、皮脂欠乏性湿疹、掻痒(そうよう)症をともなうこともあり、40歳以上の女性に多く見られます。
この脱毛症で抜けた髪の毛の毛根部分はひょろりとしていて、まるでオタマジャクシのしっぽのようになっています。
体質的な要素が大きく、食生活の肉食への偏り、油脂の摂取量やその質、冷え性、加齢、頭皮の手入れ不足やその他の原因が重なると薄毛を招いたり、脱毛がますます悪化したりします。
②脂漏性脱毛症
いわゆる「男性型脱毛」と呼ばれる脱毛症で、男性に多く見られます。
ひこう性脱毛症と同様、フケと関係のある脱毛症です。
ただし、ひこう性脱毛症の場合は乾性のフケが出ますが、脂漏性脱毛症の場合は毛根部が脂っぽくベタッとしているのが特徴です。
過剰な皮脂分泌が主な原因と考えられますが、食生活の偏りとストレス、マーガリンやショートニング、硬化油などのトランス型脂肪の摂取、それに頭皮の手入れ不足や喫煙、
清涼飲料水の摂りすぎなどで悪化することが考えられます。
③神経性脱毛症|
強いストレスなどにさらされた結果、自律神経のバランスが崩れます。
この自律神経のバランスの崩れの影響が免疫に出たときに、神経性脱毛症が起こると考えられます。
そこに食生活など他の原因が重なるとひどく脱毛し、全身の脱毛を招くこともあります。
④細菌性(円形・多発性)脱毛症
細菌性脱毛症には2種類あり、脱毛が一カ所だけに起こるものを「円形脱毛症」、複数の箇所に起こるものを「多発性脱毛症」といいます。
以前は後頭部の襟足に発生する円形脱毛症がほとんどでしたが、近年では側頭部などに複数発生する多発性が増えています。
かつて、この脱毛症は極度の精神的ショックやストレスが原因と考えられていました。
しかし、現在では精神的ショックやストレスそのものが円形脱毛症を招くのではなく、頭部常在菌と免疫の関係が主な原因と考えられています。
他の脱毛症と複合的に作用すると回復が難しく、また長引きます。
⑤代謝異常性脱毛症
いままでの脱毛根にはなかった形のものが多く見られるようになってきました。
それが代謝異常性脱毛症で、若い人に多く見られるようになっています。
この脱毛症で抜け落ちた髪の毛の毛根部は、非常に複雑な形をしています。
ゆがんだ形や蛇がグネグネととぐろを巻いているような形、あるいは毛幹が極端に細くなっていたりするのです。
ひどい場合は、毛球自体がなくなっていたりします。
原因としてはホルモンバランスの崩れ、食生活の乱れや偏り、無理なダイエットの悪影響、極端な夜型生活、タバコなど嗜好品の摂りすぎ、環境ホルモン、薬物の作用などが考
えられ、身体の不健康からの脱毛症と考えられます。
また、異常脱毛ではありませんが、その他、加齢からの壮年性脱毛等もあります。
●こんな原因が異常脱毛を招く
いま、近年の異常脱毛の主な5つのパターンを挙げました。
これらの脱毛症は単独で起こることもありますが、いくつかの脱毛症が複合的に生じるケースもあります。
異常脱毛を招く原因はそれこそ限りなくあります。
そのすべてをここで説明することは不可能ですが、異常脱毛の主な要素として次のようなものが考えられます。
①頭皮の手入れ不足による頭皮環境の悪化
頭皮には、皮脂腺から皮脂が分泌されます。
皮脂は保護膜として頭皮を守る大切な働きがあり、皮脂を取りすぎるとバリア機能が損なわれて頭皮は危機に瀕します。
しかし、頭皮の手入れが不足すると皮脂が過剰になり、皮脂が過剰な状態も頭皮には危険な状態です。
さらに、頭皮の手入れが不足すると、頭皮の環境が不潔になります。
私たちの頭皮には真菌や頭部白癬菌といった頭部常在菌が住み着いていますが、頭皮環境が不潔になるとプロピオン酸菌などが異常繁殖し、それらが毛穴から侵入して毛母細胞にダメージを与えることになります。
②高脂肪・高カロリーの欧米型食生活への偏り
牛肉など動物性脂肪の摂りすぎ、乳製品や硬化油、ショートニングの摂取、酸化した油脂類の摂取、高カロリー・高脂肪食などが髪に悪影響を与えます。
こうした食事によって悪玉コレステロール (LDL)や中性脂肪が増え、頭皮の毛細血管を詰まらせます。
毛細血管は毛母細胞への栄養補給の唯一のルートですから、毛母細胞に酸素や栄養が届けられなくなると毛母細胞の働きが衰え、脱毛します。
③コンビニ弁当やテイクアウト食品への偏り
コンビニ弁当やテイクアウト食品には、多量の化学物質や有害物質が含まれています。
そうした物質の悪影響と、髪の原料になる良質のタンパク質不足が考えられます。
良質の動物性タンパク質と植物性タンパク質、タウリンや鉄分の摂取不足なども毛母細胞の正常な分裂を阻害し、脱毛を引き起こす可能性があります。
④自律神経のバランスの崩れと免疫の影響
脱毛には自律神経のバランスの崩れも関係しています。
自律神経には交感神経と副交感神経があります。
夜型生活や過度のストレスなどで交感神経優位の状態がつづくと血液の流れが悪くなり、酸素や栄養が毛母細胞へ送られにくくなります。
また、免疫細胞の一種である顆粒球が増え、活性酸素で毛母細胞を攻撃します。
毛母細胞の働きが損なわれ、脱毛に至ります。
⑤枕など寝具への配慮の不足
枕の内部は、細菌などが繁殖しやすい環境になっています。
枕を洗濯しないでいると、内部で頭部常在菌類(主にカビ菌類)が繁殖します。
毛穴からこの頭部常在菌が侵入すると、やはり頼粒球が毛母細胞に悪影響を与えます。
その結果として、脱毛が引き起こされると考えられます。
●出産後の脱毛など、女性特有の異常脱毛もある
これら5つの異常脱毛症は、男性にも女性にも起こりえます。
しかし、女性には女性特有の異常脱毛もあります。
女性特有の異常脱毛の代表は、出産後の脱毛です。
妊娠中の女性の身体では、黄体ホルモンの分泌が盛んになっています。
そのためヘアサイクルのリズムが一時的に変化し、その変化のために、通常であれば休止期に入って抜けるべき髪の毛が抜けずにそのまま成長します。
しかし、出産を終えてホルモンの分泌が通常の状態にもどったとき、一斉に抜けてしまうのです。
出産後、シャンプーで抜け落ちた大量の髪の毛を見ると誰でも驚きます。
しかし、出産後の大量脱毛の原因ははっきりしていますから、ほとんどの場合は心配ありません。
出産後脱毛のケアとしては、出産によって消耗したタンパク質やカルシウムなどを十分に補給し、睡眠と休養を心がけることです。
栄養がいきわたるようになれば抜け毛の量も減り、髪は次第に正常な状態にもどります。
ただ気をつけたいことがあります。
それは、出産後のさまざまな問題です。
妊娠中に赤ちゃんに栄養を与えてきた母体は、出産後にかなり体力を消耗しています。
そして、完全にもとの身体に復帰しないうちから慣れない育児に追われ、はじめのうちは3時間おきの夜泣き、その後も4時間おきの授乳やオムツの交換など、睡眠不足の状態が
つづきます。
仕事を持つ女性もいますから、職場復帰への気持ちが焦りやストレスになる場合も考えられます。
この時期、育児への家族の理解や協力が得られ、母体の回復に気を使ってくれたり、栄養や休養を十分に取らせてもらえればよいのですが、現実にはなかなか難しいのではない
でしょうか。
ご主人に相談しようにも、ご主人は仕事に忙しい。
家事や育児に協力してくれない。
睡眠不足に加えてストレスがつのり、自律神経失調になることもあります。
こうした種々の問題が、脱毛の原因になることは十分に考えられます。
そして肝心な点は、こうした状況から起こる脱毛は出産後脱毛とは違うものだということです。
出産後にいつまでも脱毛がつづくような場合、別の原因を疑ってみる必要もあります。
そして、できるだけ早く、脱毛のケアをはじめることが大切になります。